SDGsの概要
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)は、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)を継承した目標である。MDGsは対象を開発途上国としていたが、SDGsは対象を地球上にいる人全員と定めているので、先進国も含め「誰一人取り残さない」という意識が高まった。
SDGsは「社会」「環境」「経済」の持続可能な発展を重視しており、17の目標と169のターゲットが示されている。
SDGs17の目標
- 目標01 貧困をなくそう
- 目標02 飢餓をゼロに
- 目標03 すべての人に健康と福祉を
- 目標04 質の高い教育をみんなに
- 目標05 ジェンダー平等を実現しよう
- 目標06 安全な水とトイレを世界中に
- 目標07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
- 目標08 働きがいも経済成長も
- 目標09 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 目標10 人や国の不平等をなくそう
- 目標11 住み続けられるまちづくりを
- 目標12 つくる責任つかう責任
- 目標13 気候変動に具体的な対策を
- 目標14 海の豊かさを守ろう
- 目標15 陸の豊かさも守ろう
- 目標16 平和と公正をすべての人に
- 目標17 パートナーシップで目標を達成しよう
バリューチェーンによる影響評価
GRI、国連グローバル・コンパクトおよびWBCSDによって発行されたSDG Compassでは、影響の評価と優先課題を決定するためにバリューチェーンを活用することを推奨している。バリューチェーンとは、マイケル・E・ポーターが著書『競争優位の戦略』の中で提唱したフレームワークのことだ。「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」という主活動と、「全般管理(インフラストラクチャー)」「人事・労務管理」「技術開発」「調達」という支援活動で構成される。企業活動を段階的に分類することで、利益に影響を与える活動を明確にすることができる。
SDG目標の達成には、正の影響を与える活動を強化し、負の影響を与える活動を最小化することが必要となる。正の影響としては、中核的能力(コア・コンピテンシー)の強化、新技術の開発、製品構成の見直し、新市場の開拓等があり、負の影響としては、新しい規制、サプライチェーンの途絶、原材料の高騰、ステークホルダーからの圧力、既存市場の需要縮小などが考えられる。
バリューチェーンを活用することで企業活動とSDG目標の関係を俯瞰的に見ることができ、優先課題の特定にも役立つだろう。
ロジックモデルによる影響評価
ロジックモデルとは、資源の投入、政策や事業活動の実行から、その成果が発現するまでの論理的過程を描くもの(国際開発センター(IDCJ) SDGs室)であり、1970年代にアメリカで政策評価の理論的手法として開発された。投入(インプット)から活動(アクティビティ)、産出(アウトプット)、結果(アウトカム)、影響(インパクト)という5段階のプロセスで考察される。
SDGsにおけるロジックモデル
- 投入:投入資源のうち、SDGsに対して正または負の影響を与え得るものは何か
- 活動:どのような活動がなされるか
- 産出:その活動により何が生み出されるか
- 結果:対象とする人々にどのような変化がもたらされるか
- 影響:その結果がもたらす変化とは何か
KPI(主要業績評価指標)
KPI(主要業績評価指標)は最重要プロセスの目標数値のことであり、事業成功の鍵を数値目標で表したものと言い換えることができる(最高の結果を出すKPIマネジメント)。
影響評価よりSDGs目標を設定することになるが、持続可能な開発テーマに対して最も良い影響を与える指標をKGI(最終的な目標数値)とするのが良い。現在の状況とKGIとのギャップを把握することが重要だ。
環境報告ガイドライン2018 年版に記載されている主な環境課題とその実績評価指標について以下に紹介する。KPIを設定する指標として参考となるだろう。
- 1.気候変動
- 温室効果ガス排出量、エネルギー使用量、原単位
- 温室効果ガス:二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(CO)、三フッ化窒素(NF3)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六ふっ化硫黄(SF6)
- 原単位:一定量の製品を生産するのに必要な、原材料やエネルギーの量を表す単位(緑のgoo:「原単位」とは)
- 2.水資源
- 水資源投入量、排水量、原単位
- 上水、工業用水、地下水、河川水、海水等
- 3.生物多様性
- 事業活動が生物多様性に及ぼす影響、生物多様性の保全に資する事業活動など
- 4.資源循環
- 資源の投入、資源の廃棄、循環利用率(=循環利用材の量/資源投入量)
- 5.化学物質
- 化学物質の貯蔵量、排出量、移動量、取扱量(製造料・使用量)
- 6.汚染予防
- 全般:法令遵守の状況
- 大気汚染:大気汚染規制項目の排出濃度、大気汚染物質排出量
- 水質汚濁:排水規制項目の排出濃度、水質汚濁負荷量
- 土壌汚染:土壌汚染の状況
アウトサイド・イン・アプローチ
事業目標を達成度に対する時系列的な分析や同業他社と比較によって内部的に設定するインサイド・アウト・アプローチでは、SDGsのような世界的な課題に十分対処することができない。この問題に対してSDG Compassでは現行の事業目標と世界的な課題に対する達成度のギャップがある場合は、アウトサイド・イン・アプローチが良いと紹介している。
アウトサイド・イン・アプローチは、達成度のギャップを埋めるため、事業目標を外部的な社会的・世界的なニーズに基づいて設定し、科学および外部データに基づき事業が対処できる社会のニーズを基準に事業目標を設定する。将来のあるべき姿を先にイメージしてSDGs達成への道筋をブレることなく進むためのアプローチとなる。
持続可能な目標
企業活動における影響評価、目標達成に必要なKPI(主要業績評価指標)の特定、社会的・世界的なニーズのうち自社で対処できるSDGs目標を設定が終わっても完成とは言えない。持続可能な目標を組織内に確実に定着させるという重要なミッションが残っているからだ。以下の点に注意して進めよう。
- 目標設定の過程を示し、目標に取り組む根拠を明確化する。
- 目標進展が企業価値の創造になることを説明する。
- 部門や個人の具体的な役割を示し、人事評価につなげる。
持続可能性に関する報告
持続可能性に関する報告は当初、信頼の醸成と社会的評価の向上のための手段と位置づけられていた。しかし現在では、持続可能な意思決定プロセスを支援し、組織発展を促進し、達成度を向上させ、ステークホルダーと協働し、投資を呼び込む等のための戦略的なツールに変容している(SDG Compass)。
報告書ではマテリアリティ(重要性)評価が示される。評価においては「企業の経済・環境・社会面の影響の重要度」を横軸に「ステークホルダーの評価・決定への影響」を縦軸に取ったマテリアリティマトリックスを用いることが推奨されている。
化学物質管理との関係
化学物質管理に関係するSDGsの目標、ターゲットを以下にまとめる。化学物質管理を適正に行い、SDGs達成に向けて役立ててもらいたい。
3.あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
3.9 2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。
- SDSは、2項、11項、12項で化学物質の危険有害性情報、環境影響状況等を確認できる。
- chemSHERPAは、化審法第一種特定化学物質、TSCA6条物質、EU規制物資、GADSL、IEC62474等の規制物質を確認できる。
6.すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
6.3 2030年までに、汚染の減少、投棄廃絶と有害な化学物や物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模での大幅な増加により、水質を改善する。
- SDSは水生環境有害性を確認できるため、水質汚濁の低減に活用できる。
- SDS13項は「廃棄上の注意」を記載しており、環境上望ましい廃棄、リサイクルに関する情報が記載されることになっている。
- 水の規制としては、水質汚濁法、下水道法などがある。
8.包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
8.8 移住労働者、特に女性の移住労働者や不安定な雇用状態にある労働者など、すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する。
- SDSは化学物質の「ばく露防止及び保護措置」が記載されており、労働者の安全を確保するため、許容濃度、設備対策、保護具の取り扱い情報が記載されている。
9.強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
9.4 2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。すべての国々は各国の能力に応じた取組を行う。
- 例えば有機顔料の副生PCB及びHCBの含有については、BATレベル(工業技術的・経済的に可能なレベル)が設定されており、持続的に技術レベルを向上して含有率の低減を図ることが求められている。
11.包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
11.6 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。
- 大気汚染防止法では、28の特定汚染物質や揮発性有機化合物(VOC)、248の有害大気汚染物質に該当する可能性のある物質が特定されている。
12.持続可能な生産消費形態を確保する
12.4 2020年までに、合意された国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する。
12.5 2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。
12.6 特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する。
- 廃掃法では特定有害産業廃棄物が指定されており、特に注意して廃棄することが求められている。
- 土壌汚染対策法ではシアン化合物、有機リン化合物など26の特定有害性物質が指定されている。
13.気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
13.2 気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。
- オゾン層保護法ではクロロフルオロカーボン(CFC)、ハロンなど特定物質等が規制されている。
14.持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
14.1 2025年までに、海洋堆積物や富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。
- 海洋汚染防止法ではX類物質からZ類物質といわれる有害液体物質やP物質といわれる海洋汚染物質等が指定されている。
16.持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
16.2 子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。
16.4 2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。
- 米国ドッドフランク法やEU紛争鉱物規則により「責任ある鉱物調達」が求められており、武力勢力の資金源を規制したり、児童労働を含む人権侵害を監視する仕組みが近年になって確立されつつある。