顔料における化学法規制動向とその対応のポイント

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COSMETIC STAGE Vol.15, No.6 2021 寄稿

目次

1.はじめに

 化学物質に対する人や環境への影響を低減し懸念される化学物質の流通を適正に管理するため、化学物質の含有について情報開示を求める動きが国際的に広がっている。情報開示を進めるにあたり化学物質の管理手法は、化学物質のハザード(有害性)のみに着目したハザードベースの管理から、環境への排出量(ばく露量)も踏まえたリスクベースの管理へシフトした。リスクは「ハザード(有害性)×環境排出量(ばく露量)」で表され、有害性とばく露量の両面から評価される。

 化審法では化学物質を製造する際に副生する第一種特定化学物質について、可能な限りその生成を抑制するとの観点から、「利用可能な最良の技術」(BAT:Best Available Technology/Techniques)を適用し、第一種特定化学物質を「工業技術的・経済的に可能なレベル」(BATレベル)まで低減すべき、というリスクベースの考えに基づいて運用を行っている。

2.顔料と化粧品の関係について

2.1 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法・旧薬事法)

 化粧品における顔料の位置づけを明らかにするために、薬機法の内容を見ておきたい。第1条の法目的を確認すると「化粧品等の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行う」と定められている。また第2条第3項の化粧品の定義では、医薬部外品を除いたものであり「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なもの」となっている。色材関係の項目を探すと、第62条において第56条が準用されており、着色のみを目的として、厚生労働省令で定めるタール色素以外のタール色素を使用することはできないことになっている。

2.2 医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令(省令)

 厚生労働省令で定めるタール色素以外は着色剤として使用できないので、医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令を確認し、どのような顔料が使用できるのかを調べる。省令第3条には、第1項1号で化粧品「別表第1部及び第2部に規定するタール色素」、同2号で粘膜に使用されることがない化粧品「別表第1部、第2部及び第3部に規定するタール色素」との記述がある。また、毛髪の洗浄又は着色を目的とする化粧品については、ここに挙げられているすべてのタール色素を使用できる。これらタール色素のうち顔料に相当する色素を表1に示す。

表1 タール色素(顔料抜粋)
別表第2部
赤色201号(PR57:1)、赤色202号(PR57)、赤色203号(PR53)、赤色204号(PR53:1)、
赤色205号(PR49)、赤色206号(PR49:2)、赤色207号(PR49:1)、赤色208号(PR49:3)、
赤色219号(PR64:1)、赤色220号(PR63:1)、赤色221号(PR3)、赤色228号(PR4)、
だいだい色203号(PO5)、だいだい色204号(PO13)、
黄色205号(PY12)
別表第3部
赤色404号(PR22)、赤色405号(PR48)、
だいだい色401号(PO1)、
黄色401号(PY1)、
青色404号(PB15)

※顔料を例示する際はカラーインデックス名を使用する。また、カラーインデックスでは色別分類に10色(Yellow・Orange・Red・Violet・Blue・Green・Brown・Black・White・Metal)を使用するが、ここではPigment Blue 15をPB15など、省略形で表示する。

2.3 医薬部外品原料規格2021(外原規)

 本規格は、医薬部外品等の原料として配合することが認められる成分のうち、日本薬局方、食品添加物公定書及び日本産業規格に収載されている成分規格以外のものについて、医薬部外品原料規格としてまとめたものである。

 外原規には無機顔料などが収載されているので、表2に示す。

表2 外原規に収載されている顔料(抜粋)
無機顔料
カーボンブラック(PBk7)、酸化チタン(PW6)、黄酸化鉄(PY42)、ベンガラ(PR101)、黒酸化鉄(PBk11)、グンジョウ・グンジョウバイオレット・グンジョウピンク(PB29)、コンジョウ(PB27)、酸化アルミニウム・コバルト(PB28)、酸化クロム(PG17)、水酸化クロム(PG18)、マンガンバイオレット(PV16)、マイカ(PW20)、カオリン(PW19)、ケイ酸(PW27)、炭酸カルシウム(PW18)、酸化亜鉛(PW4)、ケイ酸カルシウム(PW28)、タルク(PW26)、硫酸バリウム(PW21)、など

2.4 化粧品基準

 化粧品基準では、総則において「化粧品の原料は、それに含有される不純物等も含め、感染のおそれがある物を含む等その使用によって保健衛生上の危険を生じるおそれがある物であってはならない。」と定められており、化粧品の成分規制が記載されている。

 配合禁止成分は、医薬品の成分、生物由来原料基準に適合しない物、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の第一種特定化学物質、第二種特定化学物質、その他これらに類する性状を有する物であって厚生労働大臣が別に定めるもの、別表第1に掲げる物、となっている。

 配合制限成分に関する記述では、タール色素に限定すると、医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令第3条の規定を準用するとし、但し書きで、赤色219号(PR64:1)及び黄色204号については、毛髪及び爪のみに使用される化粧品に限り、配合することができるとされている。

3.顔料における化学法規制動向

3.1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)

 化審法は、難分解性の性状を有し、かつ人の健康を損なうおそれがある化学物質による環境の汚染を防止するため、昭和48年(1973年)に制定された法律である。新規の化学物質の事前審査制度を設けるとともに、ポリ塩化ビフェニル(PCB)と同様、難分解であり高蓄積性を有し、かつ、長期毒性を有する化学物質を特定化学物質(現在の第一種特定化学物質)に指定し、製造、輸入について許可制をとるとともに使用に係る規制を行うこととされた。

 化審法第55条では、化審法と同様な趣旨の規制を行っている他の法令との関係について規定しており、本法と同等若しくはそれ以上の規制を行い得る場合については、本法の規定を適用せず、他の法令によることとしている。

 すなわち、食品衛生法の「食品」、「添加物」、「容器包装」、「おもちゃ」、「洗浄剤」、農薬取締法の「農薬」、肥料取締法の「普通肥料」、飼料安全法の「飼料」、「飼料添加剤」、薬機法の「医療品」、「医薬部外品」、「化粧品」、「医療用具」については適用除外になっている。これらの製品に第一種特定化学物質や第二種特定化学物質が含有されているとしても、それぞれの法律で所要の措置を講じ得るものとされていることから、本法の関連規則を除外し、それぞれの法律によって規制されている1)

(1)ヘキサクロロベンゼン(HCB)

 副生HCBに係る報告書2)3)によると、輸入したテトラクロロ無水フタル酸(TCPA)よりHCBの含有が確認された。TCPAの主たる用途は、樹脂等の着色に用いられる染料・顔料や一部の塗料等の原料である。TCPA由来の顔料はPY110、PY138などである。また、PG7、PG36からもHCBの含有が確認され、原料ブルークルードの塩素化の際に副生しているものと考えられる。

 運用通知4)によると、「第一種特定化学物質に該当する化学物質が他の化学物質に副生成物として微量含まれる場合であって、当該副生成物による環境の汚染を通じた人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがなく、その含有割合が工業技術的・経済的に可能なレベルまで低減していると認められるときは、当該副生成物は第一種特定化学物質としては取り扱わないものとする。」とされた。

 この運用通知に該当するためには、HCBの「自主管理上限値」と「低減方法」を厚生労働省、経済産業省及び環境省(3省)に書類を提出して説明しなければならない。

(2)ポリ塩化ビフェニル(PCB)

 化成品工業協会からの報告により、一部の有機顔料が、製造工程において非意図的に生成した微量のポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有することが判明した5)。PCBを副生することが確認された顔料は、PB15、PO13、PY12、など多岐に渡る。このうち、50ppmを超えるPCB含有が確認されたPR2、PR112の製造・輸入は中止された。

 副生PCBに係る報告書6)によると、PCBに関してもHCBと同様にBAT及び運用通知の考えが踏襲される。また、「有機顔料中に副生するPCBに関するリスク評価検討会」における検討結果では、50ppmよりも高い濃度においても、製品による健康リスクや、環境汚染を通じた人健康や生態系へのリスクは低いとされていること、有機顔料中に副生するPCBについては、対象となる有機顔料の種類や製造・輸入事業者が多いという特徴がありHCBの水準を示すことは困難であることなどから、BATレベルは50ppm以下が適用されることとなった。

 「副生第一種特定化学物質を含有する化学物質の取扱いについて(お知らせ)(平成28年3月4日)」7)によると、次の三要件のいずれかを満たす有機顔料を製造又は輸入しようとする場合(既に製造又は輸入している場合も含む)は、副生するPCBの含有量を確認し、あらかじめ3省に、事業者において出荷の是非を判断する基準となる自主管理上限値や分析方法、分析頻度等からなる管理方法について報告し、その妥当性について説明する必要がある。

【三要件】

  • 化学構造に塩素原子を含む顔料
  • 塩素原子を含む原料を使用する顔料
  • 合成工程において塩素化芳香族系の溶媒を用いる顔料

(3)運用通知と化粧品基準の関係

 運用通知では、3省への届出により、BATレベルまで低減していると認められるときは、PCB・HCBのような副生成物は第一種特定化学物質としては取り扱わないものとされる。しかしながら、化粧品はどうであろうか。本章の冒頭でも述べた通り、薬機法の対象となる化粧品は化審法の適用除外となっており、化審法上の運用通知は適用されないことが考えられる。PCBに関する三要件に該当するタール色素は、赤色203号(PR53)、赤色204号(PR53:1)、赤色228号(PR4)、だいだい色204号(PO13)、黄色205号(PY12)、赤色405号(PR48)、青色404号(PB15)、となっている。これらの顔料を化粧品で使用する際は注意していただきたい。

(4)ストックホルム条約(POPs条約)

 POPs条約は、残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)から人の健康と環境を保護することを目的としている。環境中での残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるポリ塩化ビフェニル(PCB)、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)等の残留性有機汚染物質の、製造及び使用の廃絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している。

 附属書Aの注釈には「製品中及び物品中の意図的でない微量の汚染物質として生じている量の化学物質は、条約に別段の定めがある場合を除く他、この附属書に掲げられているものとして取り扱わない」と規定している。「微量」については特段の定義はないが、0.005%(50ppm)を超えるPCBを含む機器の流通を中止するよう努力することを附属書Aで規定している8)

(5)パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)9)

 POPs条約において有機フッ素化合物が規制される中、PFAS(Per- and polyfluoroalkyl substances)について規制が強化されるという情報が入ってきている。PFASの定義は、少なくとも1つの「-CF2-」または「-CF3」を含む物質、となっていることから規制の対象となる化学物質が広範囲にわたり発生することが懸念されている。「-CF3」を含む顔料を調べるとPY154、PY128、PO60、PR242などが確認された。

 PFASをめぐる各国の動きとして、米環境保護庁(EPA)は、安全飲料水法と有害物質規制法(TCSA)を改正したPFASの規制強化や、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)関連の重要新規利用規則(SNUR)追加についても検討を進めている。また、EU各国当局は、PFASの製造・使用による環境と人への健康リスクを制限するため、REACH規則案を共同で作成する。同規則に関する決定は、2025年の発効が計画されている。

3.2 化学物質排出把握管理促進法(化管法)

 平成11年7月13日に制定された事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした法律である。PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)制度とは、化学物質の発生から排出までを把握し、集計し、公表する仕組みである。第一種指定化学物質を製造したり使用したりしている事業者は、環境への排出量を大気、水域、土壌に分け、かつ産業廃棄物処理業者に委託して処分している量を届け出る必要がある。

 第一種指定化学物質、第二種指定化学物質に該当する場合は、安全データシート(SDS)による情報の提供やラベルの表示を行う必要がある。第一種、第二種指定化学物質は1%以上、特定第一種指定化学物質は0.1%以上含有している場合に届出の対象となる。このSDSの提供義務及びラベルによる表示の努力義務はあくまで事業者向けであり、「主として一般の消費者の生活の用に供される製品」は対象になっていない。化管法では製品の用途による除外規定は無いため、医薬品や化粧品であっても事業者向けの場合は、SDSの提供義務及びラベルによる表示の努力義務がある。

 外原規に収載されている化学物質のうち、化管法の対象となる無機顔料は、コバルト及びその化合物である酸化アルミニウム・コバルト(PB28)、クロム及び三価クロム化合物である酸化クロム(PG17)、水酸化クロム(PG18)、マンガン及びその化合物であるマンガンバイオレット(PV16)などである。化管法施行令第4条に定める指定化学物質は、製品中の金属の含有率が金属換算において規定含有率以上含まれている場合、SDSの提供義務及びラベルによる表示の努力義務の対象となる。顔料に関係する指定化合物を表3に示す。

表3 指定化学物質(顔料関係抜粋)
特定第一種指定化学物質鉛化合物(PR104、PY34など)
ニッケル化合物(PBr34、PG50、PY53、PY150、PY157など)
第一種指定化学物質アンチモン及びその化合物(PBr24、PY53など)
カドミウム及びその化合物(PO20、PR108など)
クロム及び三価クロム化合物
 (PB36、PBk28、PBk27、PBr24、PBr33、PG17、PG18など)
コバルト及びその化合物(PB28、PB36、PBk27、PG26、PG50など)
セレン及びその化合物(PO20、PR108など)
バナジウム化合物(PY184など)
マンガン及びその化合物(PBk26、PBk28、PR48:4、PV16など)
モリブデン及びその化合物(PB1、PR81、PR81:4、PV1、PV3など)

3.3 消防法

 消防法は、火災を予防し、警戒しおよび鎮圧し、国民の生命、身体および財産を火災から保護するとともに、火災または地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする法律である。昭和23年に公布された。危険物は別表第一にまとめられており、有機顔料が主に関係する部分は「危険物第五類」である。「危険物第五類」は自己反応性物質と呼ばれ、ニトロ化合物やアゾ化合物などが対象となっている。

 アゾ顔料はその名の通りアゾ化合物であり、全てのアゾ顔料が危険物となりえるため、化成品工業協会の有機顔料環境保安委員会では安全性調査を行った。調査結果は以下のとおりである。

  • アゾレーキ顔料:非危険物
  • ニトロ基を含まない不溶性アゾ顔料:非危険物
  • ニトロ基を含む不溶性アゾ顔料:危険物

 この結果、危険物となる顔料はPR3、PR4、PO1、PO5、PY1、PY5、PY73、PY74、PY75であると報告された。タール色素では、赤色221号(PR3)、赤色228号(PR4)、だいだい色401号(PO1)、だいだい色203号(PO5)、黄色401号(PY1)が該当する。これらの顔料を危険物から除外するためには、指定された試験を受けて安全性を確認する必要があるため、注意が必要である。

3.4 REACH規則

 人の健康と環境の保護、欧州化学産業の競争力の維持向上などを目的としている。従来の規制においては、規制の導入以後に新たに製造又は上市される新規化学物質は有害性(又はリスク)の評価を事業者が実施することが義務付けられる一方、欧州既存商業化学物質リスト(EINECS)に登録されている既存化学物質についてはリスク評価の実施は主に行政の役割とされていた。REACH規制では、既存化学物質と新規化学物質の扱いをほぼ同等に変更し、これまでは政府が実施していたリスク評価を事業者の義務に変更した。また、サプライチェーンを通じた化学物質の安全性や取扱いに関する情報の共有を強化している。登録対象は、新規化学物質か既存化学物質かを問わず年間の製造・輸入量が、事業者当たり1トンを超えている化学物質である。

(1)AnnexXIV

 認可対象物質が収載されている。REACH規則第55条より認可対象物質は、認可対象候補物質(CLS物質)として特定されたものから、加盟国の専門家の意見やリスクなどを考慮して決定される。CLS物質は①一定程度以上の発ガン性・変異原性・生殖毒性物質(CMR物質)、②残留性、蓄積性、毒性を有する物質(PBT物質)、③残留性及び蓄積性が極めて高い物質(vPvB物質)、④これ以外の化学物質で、内分泌かく乱特性を有しており人の健康や環境に深刻な影響がありそうなものより選定される。

(2)AnnexXVII

 制限対象物質が収載されている。REACH規則第67条より制限対象物質における物質、調剤、成形品は、制限の条件に合致しない場合、製造、上市又は使用ができない。

 最近追加されたEntry75は、刺青用インク及びパーマネントメイクアップ類中の含有化学物質を制限するもので、金属や色素など複数の化学物質が対象になっている。顔料に関係する対象化学物質を表4に示す。

表4 AnnexXVII Entry75の対象化学物質(顔料関係抜粋)
顔料
PR2、PR7、PR9、PR12、PR14、PR15、PR17、PR22、PR112、PR146、PR210、PR269、PY1、PY8、PY12、PY14、PY55、PY65、PY74、PY87、PY97、PO13、PO16、PO34、PO74、PV3、PV39(顔料閾値:1000ppm)
重金属
Zinc(閾値:2000ppm)
Barium(閾値:500ppm)
Copper(閾値:250ppm)
Chromium、Cobalt(閾値:0.5ppm)
芳香族アミン(PAA)
PAA(閾値:0.5ppm)

3.4 芳香族アミン(PAA)に係る規制

 一部のアゾ顔料は、PAAに指定されている物質を原材料として使用している。具体的には、3,3′-Dichlorobenzidine、2-Amino-4-nitrotoluene、3,3′-Dimethoxybenzidine、o-toluidineなどである。アゾ顔料はこれら芳香族アミンをジアゾ化反応させ、カップリング成分との反応により合成される。

 国内でもo-toluidineに起因する膀胱がん発症の事例があり、PAAへの関心が高まっている。PAAは温度やpHなどの分析条件により分析値が変動するため、分析方法の確立が求められてきた。スイスのバーゼルに拠点を構えるETAD(染料・有機顔料製造者生態学毒性学協会)では、アニリン換算で測定を行うAP(89)1法の問題点を改善した新たなPAAの分析方法を検討している。ETAD212法と呼ばれるこの分析方法は、顔料メーカー各社の協力のもとで分析方法が確立され、ETADメンバーである欧州や日本などの顔料メーカーによって、統一的分析法として利用が開始されている。

(1)AP(89)1

 AP(89)1は、「食品に接触するプラスチック中の着色剤の使用に関する欧州評議会の議決」で、着色剤中の重金属と一部有機化合物の含有量の規制値が規定されている。PAAはアニリン換算で測定されるため、顔料中のPAA含有量を直接測定するのではなく、色の濃度で測定する点で問題がある。

  • Total Aromatic Amines:500ppm
  • Unsulphonated Aromatic Amines:500ppm
  • Benzidine/2-naphthylamine/4-aminobiphenyl:10 ppm

(2)ドイツ日用品規制

 ドイツ日用品規制は特定のアゾ染料および顔料について、繊維製品など皮膚に直接、長期間接触する製品への使用が禁止された。アゾ染料および顔料から還元的に生成するPAAについて規制している。その後、76/769/EECの改正(EU Directive 2002/61/EC)でPAA2種類が追加され22種類となった。

  • ドイツ日用品規制:PAA 20種類(30ppm以下)
  • EU Directive 2002/61/EC:PAA 22種類(30ppm以下)

 ETADが行った特定芳香族アミンを原料としている代表的なアゾ顔料の報告結果を表5に示す10)。この結果によると、ドイツ日用品規制の対象となる顔料はPR8、PR22、PR38の3点である。PR22はタール色素に該当するので注意が必要となる。またこの報告の中で「捺染を行う条件下においてPBk7とPO13またはPO34の組み合わせは、特定芳香族アミンである3,3′-Dichlorobenzidineを放出し、その量はPBk7の質と量に依存している。」という情報を発信している。タール色素のだいだい色204号(PO13)とカーボンブラックを組み合わせて使用する場合は、くれぐれも注意していただきたい。

表5 特定芳香族アミンを原料としているアゾ顔料
原料アミンC.I.NameCAS No.結果
3,3′-Dichlorobenzidine(CAS No.91-94-1)

PO133520-72-7A
PO3415793-73-4A
PR386358-87-8B
PY126358-85-6A
PY135102-83-0A
PY145468-75-7A
PY174531-49-1A
PY556358-37-8A
PY835567-15-7A
2-Amino-4-nitrotoluene(CAS No.99-55-8)

PR86410-30-6B
PR226448-95-9B
 
3,3′-Dimethoxybenzidine(CAS No.119-90-4)

PO16650528-8B
 
  • 結果A:ドイツ日用品規制に抵触する可能性が低いと判断されるもの→白物質
  • 結果B:ドイツ日用品規制に抵触する可能性が高いと判断されるもの→黒物質

(3)BfR勧告書IX

 BfR勧告書IX(日用品用途プラスチックの色材に関する規制)は、紙ナプキン中に発がん性のo-anisidineが検出されたのを契機に法制化された。欧州の紙ナプキンは日本のように白ではなく様々な色で着色されており、この着色剤からPAAが検出されたというものである。

  • PAA(疑似食品への移行値):
    •  全PAAsで10ppbの検出限界でN.D.
    •  CMR 1A 1Bの個別PAAに関して2ppbの検出限界でN.D.

(4)PIM規則

 PIM規則(プラスチック規則:10/2011/EU)においてもPAAの特定移行量ついて規定がある。最近、PAAの検出限界値を0.01から0.002mg/kgへ引き下げる改正が行われた。具体的には、REACH規則 AnnexXVII Appendix8 Entry43に記載されたPAAに適用され、PAA毎にそれぞれ0.002mg/kg以下となる。また、ここに記載されていないPAAは、PAAの合計が0.01mg/kg以下を満たす必要がある。

  • 芳香族一級アミンの検出限界値:SML 0.002mg/kg

(5)家庭用品規制法

 国内でも平成28年4月1日から家庭用品規制法において特定芳香族アミンの規制が始まった。この規制の対象は繊維製品・革製品の直接肌に接触する部分であり、着色剤に関してはアゾ染料に限定しており、顔料は除外されている点に注意が必要である。

3.5 CMR物質に係る規制

 CMRとは「Carcinogenic Mutagenic or toxic to Reproduction」のことであり、発ガン性、変異原性、生殖毒性と訳される。顔料は比較的安全性が高い物質だと言われるが、構造中に含有する重金属などの影響で化合物として包括的な規制を受けることから、対象物質に該当する場合がある。

(1)Proposition65

 カリフォルニア州法プロポジション65は、人体へ有害な化学物質が暴露することを防止するめに、飲料水の水源へ有害な化学物質が混入防止すること、人への有害な化学物質を暴露することを防止することを目的として1986年11月にアメリカのカリフォルニア州で施行された法律である。

 発がん性や生殖毒性などに懸念のある1,000種ほど化学物質が収載されており、その一部に「有意なリスクの無いレベル、最大許容量レベル」の値が付与されているのみで「閾値」は存在しない点に注意が必要である。顔料に関係する対象物質を表6に示す。

表6 Proposition65 対象物質(顔料関係抜粋)
Proposition65
カーボンブラック
酸化チタン
芳香族アミン(アゾ顔料の原材料)
多環芳香族炭化水素(カーボンブラックの不純物として)
六価クロム(構造中にクロムを含有する無機顔料)
HCB、PCB(有機顔料由来の不純物として)
カドミウム化合物、鉛化合物、ニッケルの化合物、など

(2)IARCの発がん性分類11)

 IARC(International Agency for Research on Cancer:国際がん研究機関)は、WHO(世界保健機関)のがんに特化した専門的な機関である。IARCの目的は、がん研究における国際的な協力を促進することで、がんの原因を特定し、予防措置を特定するなど、様々な活動を行っている。

 IARCの発がん性分類評価はグループ1から4まで分けられており、次の通りとなっている。グループ1(人に対する発がん性がある)、グループ2A(人に対する発がん性がおそらくある)、グループ2B(人に対する発がん性が疑われる)、グループ3(人に対する発がん性について分類できない)、グループ4(人に対する発がん性がおそらくない)。対象となる顔料を表7に示す。

表7 IARCの発がん性分類に該当する顔料
IARC 分類
グループ1
 ニッケル化合物(PBr34、PG50、PY53、PY150、PY157など)
グループ2A
 無機鉛化合物(PR104、PY34など)
グループ2B
 カーボンブラック、酸化チタンなど
グループ3
 PR3、酸化鉄(III)、非晶質二酸化ケイ素、タルクなど

(3)強い変異原性が認められた化学物質12)

 厚生労働省は労働安全衛生法第57条の4に基づき、届出のあった化学物質のうち強い変異原性が認められた化学物質の公表を行っている。「強い変異原性が認められた化学物質による健康障害を防止するための指針」に沿って、①ばく露防止対策、②作業環境測定、③労働衛生教育、④ラベルの表示、SDSの交付、⑤記録の保存、等の措置を講ずることとされている。有機顔料ではPR22とPR23が収載されており、タール色素の赤色404号(PR22)が該当する。

3.6 責任ある鉱物調達

 当初の目的は、「紛争鉱物」の流通を明確化することにより紛争鉱物を資金源としているコンゴ民主共和国とその周辺9ヶ国における武装勢力の紛争活動を抑制することだった。その後、EUで紛争鉱物規則が発効され、武装勢力の資金源抑制だけではなく児童労働を含む人権侵害全般を監視する「責任ある鉱物調達」へ目的を拡大している。対象となる鉱物は、錫・タンタル・タングステン・金(略称:3TG)であり、さらに人力採掘における安全でない労働環境や児童労働に対する懸念が高まったことに起因してコバルトの調査が始まっている。

(1)米国ドッド・フランク法13)

 正式名称は「金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」である。2010年に公布され、その1502条に紛争鉱物条項が記載されている。対象地域はコンゴ民主共和国(DRC)とその周辺9ヶ国で武力勢力の資金源について規制することを目的としている。対象鉱物は前述の通りスズ、タンタル、タングステン、金である。

 2012年に米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission, SEC)は、金融規制改革法第1502条に基づく規則を発行した。この規則によると、紛争鉱物に関する報告義務を負う企業は、「証券取引所法に基づき各種報告書をSECに提出している公開企業」であり、「製造する製品の機能やその製造過程に紛争鉱物が必要な企業」となる。この要件に合致しない企業は紛争鉱物に関する開示義務を負わない。すなわち、3TGが不純物として含有している場合、報告する必要は無い。また、リサイクル品に関しても除外されている点に注意が必要である。

(2)EU紛争鉱物規則(EU)2017/82114)

 正式名称は「紛争の影響を受けた高リスク地域からのスズ、タンタル、タングステン、それらの鉱石、および金の輸入者に対するサプライチェーンデューデリジェンス義務を課す欧州議会および理事会規則,(EU)2017/821」である。本規則は、EUにおける3TGの輸入者、および紛争の影響を受けた高リスク地域から3TGを調達する製錬所や精製所の供給慣行に関して透明性と確実性を提供し、サプライチェーンのデューデリジェンスシステムの構築により、紛争地域の武装グループや治安部隊が3TGを取引する機会を削減することを目的としている。

 本規制の対象となる紛争の影響を受けた高リスク地域は、武力紛争が進行中または紛争後の脆弱性がある地域、および失敗国家、人権侵害を含む国際法の広範囲にわたる違反が行われているような統治や安全保障が弱いか存在しない地域と定義されている。

(3)対象鉱物の拡大15)

 対象となる鉱物は将来的に拡大する可能性がある。現在、検討されている鉱物は、アルミニウム、銅、鉄鉱石など22種類(表8)となっている。

 タール色素を見ると青色404号(PB15)は銅を含有する。無機顔料では、黄酸化鉄(PY42)、ベンガラ(PR101)、黒酸化鉄(PBk11)、コンジョウ(PB27)は鉄、グンジョウ・グンジョウバイオレット・グンジョウピンク(PB29)、カオリン(PW19)はアルミニウム、酸化亜鉛(PW4)はその名の通り亜鉛を含有する。酸化アルミニウム・コバルト(PB28)はコバルトを含有しすでに規制対象となっている。さらに光輝材として用いられるマイカ(PW20)も対象となりつつあることから、今後の進展には注意が必要である。

表8 対象鉱物の拡大(今後の予定されているもの)
対象金属・鉱物(22種類)
アルミニウム、アルミナ、ボーキサイト、コバルト、銅、金、黒鉛、鉄鉱石、鉛、リチウム、雲母、モリブデン、ニッケル、パラジウム、プラチナ、希土類元素、銀、鋼、タンタル、スズ、タングステン、亜鉛

3.7 ナノマテリアル

(1)欧州のナノ規制16)

 欧州のナノフォーム定義は、「ナノフォームは非結合状態の、あるいは強い結合状態(アグリゲート)または弱い結合状態(アグロメレート)の、天然または工業的に製造された粒子を含む物質の形態であり、1つ以上の外径が1nm~100nmの範囲にある粒子が、寸法基準の分布が50%以上であるものをいう。ただし、1つ以上の外径が1nm未満のフラーレン、グラフェンフレーク、および単層カーボンナノチューブも含む。」というものである。

 フランス、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンなどは、独自のナノ製品登録制度を持ち、それぞれの国内法によってナノマテリアルの規制が行われている。

 ナノマテリアル(ナノフォーム)かどうかの判断は顔料結晶1つの大きさを確認する必要がある。しかし顔料結晶は一般的に凝集しており、粒度分布や比表面積では、顔料結晶1つの大きさを測定することが非常に困難である。このためTEM(透過型電子顕微鏡)画像を確認することで主観的に判断するしかない。

 しかしながらナノフォーム物質は、2020年1月1日よりREACH登録時にナノ情報を提出することが必要とされ、登録済み物質についても登録情報の更新が要求される。ナノフォームの同定に必要な情報(REACH規則 附属書VI 2.4)は、以下のとおりである。

  • 物質の名称、他の同定情報
  • 1nm~100nmの範囲の数平均の寸法分布
  • 表面の官能性、表面処理剤している場合のその名称
  • 形態、アスペクト比(球状:<3.1、棒状:≥3.1など)、他の構造的な特性
  • 表面積、比表面積
  • 分析方法、計算方法

(2)アメリカのナノ規制

 アメリカのナノマテリアル定義は、「25℃の標準気圧下で固体であり、少なくとも1次元において1~100nmの構造を持つ弱凝集または強凝集を含めた粒子として製造または加工されており、少なくとも1つ以上の独自あるいは新規の特性を示すように製造または加工された化学物質である。この規則は、弱凝集および強凝集を含め、1~100nmのサイズを持つ粒子の質量含有率が1%未満であるよう製造あるいは加工された化学物質には適用されない。」というものである。

 欧州との違いは、「新規の特性を示す」と明示されている点である。顔料は本来の目的である発色性を実現するために粒径を細かくしているだけであり、「新規の特性を示す」ために粒径を細かくしているわけではない。このためアメリカの定義において、顔料はナノマテリアルではないと言えるだろう。

4.化学法規制対応のポイント

 化学物質管理分野は慢性的な人材不足に陥っている。豊富な化学製品の知識と難解な法律用語の理解という理系と文系を両立させたスキルが要求させるため、いきなり新卒の社員を補充しても即戦力にはなりえない。専門性を高めるためには、経験者から指導のもと地道に文献やWebサイトなどで知識を積み上げていくほか無く、人材育成には多くの時間がかかる。また、化学物質管理は直接的には利益を生まないため、人材投入に消極的な経営者も多い。

 しかし、化学物質管理へ積極的に取り組むことで、環境対応や法令順守を重視した信頼性の高い企業をアピールすることが可能となる。SDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれる中、化学物質管理を適正に行い環境問題に積極的に取り組むことは、これからの社会構造を生き残るうえで必要不可欠なものになるだろう。人にも環境にも優しい安全性の高い製品を開発できる体制を持つことが、今後の会社運営の大きな力になるはずである。長期的視野で化学物質管理を行うことのできる人材を育成することが、今後の企業活動において強みとなりうる。

4.1 サプライヤーへの化学物質調査

 化学法規制対応の第一歩は、サプライヤーに対して化学物質調査を行うことである。化学物質管理の基本は、危険有害性物質を製品へ混入させないこと、そして製造過程において危険有害性物質を製品から発生させないことである。使用する原材料の調査は化学物質管理の出発点である。ここでの調査内容を精査しておかないと、顧客からの依頼の都度調査を繰り返すことになり、いたずらに時間を浪費することになる。

 ここでは化粧品に限定することなく、一般工業用途で使用される顔料について、その原材料の調査を紹介したい。調査の基本はSDSを入手することである。SDSは化管法、安衛法、毒劇法の3法から要請された文書である。3法は閾値がそれぞれ設定されているから、SDSに記載が無いことはSDS通知に伴う規制物質が閾値未満であることを意味する。次に入手すべき文書はchemSHERPAである。chemSHERPAは、化審法第一種特定化学物質、米国の有害物質規制法(TSCA)使用禁止又は制限物質(第6条)、EUのELV指令、RoHS指令、POPs規則、REACH規則の認可対象候補物質及び認可対象物質、制限対象物質、医療機器規則、自動車業界の規制であるGADSL、電子・電気業界の規制であるIEC62474の調査を行える。この他、紛争鉱物やモントリオール議定書等におけるオゾン層破壊物質、海外輸出を考えているのなら各国の化学物質登録など、必要な項目を選択して調査すれば良いだろう。

4.2 製品開発における化学物質管理

 製品開発における化学物質管理の注意点としては、①設計段階で危険有害性物質を含まない資材を選択して設計を行い、②製造段階で危険有害性物質を生成するような条件で製造を行わないことである。

 設計段階の安全性は、原材料のSDSやREACH登録によって膨大な数の化学物質情報を蓄積している欧州化学機関(ECHA)のデータベースで確認できる。製品開発において製品コンセプトを明確化し、品質と安全性のバランスを考慮の上、使用資材の選定と製品の反応条件を決定すべきである。

 製造段階での安全性は、品質マネジメントシステムの力量評価を取り入れ、顔料合成時に複製しうる危険有害性物質生成の可能性について、絶えず教育を行うことである。化学物質管理を行う担当者は技術者から報告される成功談よりも失敗談の方が有用な場合が多い。過去の失敗談を蓄積し、技術者に継承していくことも化学物質管理担当者の重要な仕事である。

4.3 調査依頼に対する顧客への対応

 タール色素のように化粧品用途で使用される着色剤は、法規制から要求された安全基準を満たすことが重要になるため、製造者側が能動的に分析調査を行うことになるだろう。これに対し、一般工業用途で使用される汎用顔料は、顧客との納入仕様書で取り交わした納入規格を満たすことが重要になるため、多くの費用負担がかかる化学物質の分析調査は限定的なものになる。ところが最近では、汎用顔料に関しても主成分だけではなく不純物の管理も求められるようになってきており、分析費用の負担増大は頭の痛い悩みとなっている。

 原材料のSDSは危険有害性情報や組成情報を入手するのに役立つが、0.1%未満のいわゆる不純物を確認するためには、法規制に要求された化学物質を個別に調査しなくてはならない。化学物質管理の閾値は、原則0.1%である。化学物質調査において非含有保証を要求してくる事例が多くあるが、顔料において不純物の非含有を保証することはほぼ不可能である。前述したようにPCB、HCBのような不純物が非意図的に含有する場合も考えられるため、顔料メーカーは製品中に対象の化学物質を意図的に使用していないことや、不純物として含有する場合でもリスクが十分低いことを根拠に不使用保証で回答する場合が多い。

5.おわりに

 ESG経営とは「Environment:環境」「Social:社会」「Governance:企業統治」を意識して経営を行うことであり、企業が長期的な成長を遂げることを目的としている。ESG経営は利益を追求するだけではなく環境問題や社会問題まで重視することを要求する。近年は環境・社会・企業統治について三位一体となって取り組まなければ、ステークホルダー(利害関係者)からの信頼を得られない状況となっている。

 ESG経営は環境投資などのデメリットではなく、新たな顧客や取引先を創出できるメリットにこそ着目すべきである。環境面を重視した有用な製品を開発できれば利益面に貢献するし、社会面である労働環境や人権問題への配慮を行うことは労務リスクの低減に繋がる。環境面と社会面を強化することで企業の健全性が高まり、企業統治が適正に行えるようになるだろう。結果としてESGを意識することで、企業のブランドイメージを向上させることになるわけだ17)

 化学物質管理はESG経営にとって必要不可欠なものである。危険有害性物質を含有しない製品は地球環境にやさしく、顧客へ安全と安心を届けることが可能だ。また、安心して使用できる原材料の調達は従業員の労働環境改善に役立つだろう。そして法令順守により企業統治を適正に行うことは企業価値の向上に寄与することになる。

参考文献

  • 1) 経済産業省,化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 逐条解説
  • 2) 経済産業省,TCPA及びソルベントレッド135中の副生HCBに係るBATレベルに関する報告書
  • 3) 経済産業省,TCPA由来その他顔料及びフタロシアニン系顔料中の副生HCBに係るBATレベルに関する報告書
  • 4) 経済産業省,化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の運用について
  • 5) 経済産業省,非意図的にポリ塩化ビフェニルを含有する可能性がある有機顔料について
  • 6) 経済産業省,有機顔料中に副生するPCBの工業技術的・経済的に低減可能なレベルに関する報告書
  • 7) 経済産業省,副生第一種特定化学物質を含有する化学物質の取扱いについて(お知らせ)
  • 8) 有機顔料中に副生するPCBの工業技術的・経済的に低減可能なレベルに関する検討会,有機顔料中に副生するPCBの工業技術的・経済的に低減可能なレベルに関する報告書
  • 9) SEMIジャパン 嶋田昇,化学物質に関する環境法規制No. 9 PFAS関連調査
  • 10) ETAD(染料・有機顔料製造者生態学毒性学協会),ETAD Information Notice No. 6
  • 11) 中央労働災害防止協会,IARCとは,https://www.jisha.or.jp/international/topics/201810_03.html
  • 12) 厚生労働省,強い変異原性が認められた化学物質,https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc02.htm
  • 13) 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構,米国・金融規制改革法第1502条(紛争鉱物)に係る規則について,http://mric.jogmec.go.jp/reports/current/20120906/1236/
  • 14) 一般社団法人東京環境経営研究所,EU紛争鉱物規則((EU)2017/821)における最近の動向,https://www.tkk-lab.jp/post/20210129reach
  • 15) 一般社団法人電子情報技術産業協会,「責任ある鉱物調達」対応の背景と調査実務
  • 16) SEMIジャパン 嶋田昇,化学物質に関する環境法規制No. 5 ナノ形態(Nanoforms) ~EU ナノ物質登録で要求される情報について~
  • 17) THE OWNER編集部,ESG投資・ESG経営とは?本当の企業価値を高めるために理解しておきたいポイント,https://the-owner.jp/archives/5508
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